「月に来たって変わらないんですね」
「何がさ」
「罪悪感です」
「そりゃあ、自分が変わらなければどこにいたって同じだよ」
「そうですよね、漠然と、何か違うのじゃないかと思いました」
「あの遠くの青い星を眺めれば、か?」
「ええ……気の遠くなるような時間と距離と速さに曝されたら、ちっぽけなことは消えるかな、と」
「甘いこと言ってるなって自分で思ってるだろ」
「はい……ちっぽけじゃないんです。私というスケールから見れば、私自身の罪は太陽より巨大なんです」
「よくわかるよ。俺もいつも苛まれてるよ、そういうやつに」
「月の石を持ち帰って宗教でも始めましょうか」
「月光会とか名付けようか。そうだな、人を真に救えるのは宗教かもしれないな」
「偉大な発明かと。でも私はそれを心から信じられない、不届きな輩なんです」
「そんなのを信じられるやつは幸せだろうなと思うね」
「だから、私の信仰に耐えうる宗教を自分で作り出すんです」
「千早が教祖か?」
「私は信者がいいです。プロデューサー、やってください」
「ええ?おれも信者がいいな。貴音あたりにでも頼むか」
「いいですね。四条さんなら適役だと思います」
「アイドルが宗教か。いや、アイドルなんて宗教みたいなもんだな、最初から」