CN遺伝子日記帳

技術的な問題への解決策を提案するふりとか同人誌の話とか

遺影たちの宴会

 曇天の中、車通りの少ない田舎道を進む。田畑の遥か先にそびえるピンネシリの山々はすっかり鈍色の雲に覆われ、あの気高き威容もうかがい知ることができない。

「結構久々じゃないか」と父は言い、田舎家の敷地へ右折した。幼少期、半年に一度は訪れていた父の実家だった。

 勝手知ったるものだ、チャイムも鳴らさずお邪魔しますと上がると伯父夫婦が迎え入れてくれた。この家に来ると、その半年に一度の来訪の際に行われる宴のことが思い出される。ぷかぷかとタバコの煙が茶の間を占め、お茶でも飲むかのように一升瓶が空いて行く。しかしそれも過去のことだ、この場所は寂しく小さな、といった感にすっかり満たされてしまっていた。もっとも、家が縮んだのではなく私が大きくなったのは言うまでもないが。

 仏間は茶の間の奥にある。信心深い質ではないが、これは礼儀だと、マッチを擦りロウソクに火を灯す。揺らめくこともない小さな火へ、三つ折りにした線香をかざし香炉へ放り込む。「金属打楽器」を二度打ち、手を合わせる。無心、無心の合掌。目を開けるとまた昔の記憶が一つ蘇った。この家の来訪の際にはこの仏間に布団を敷いてもらって寝ていたのだが、あまり熟睡できていなかった。それもそのはず。ここは少し不気味だったのだ。

 顔をあげると音楽室の偉人たちのように、遺影が並んでいた。赤子二人と少年一人、失礼ながら彼らが少し怖かった。いずれも戦中~戦後すぐに亡くなったという私の「伯父」だった。しかし今ではその横に祖父母と、もう一人伯父が並んでいる。そしてその伯父の遺影が、遺影らしからぬ、しかしその人らしいおちゃらけた写真だったものだから、後からやってきた父に対して、冗談めかして私はこう言ったのだった。

「ここに並ぶ日も遠くないよ」

「そうだな。お前がしっかりしてもらわないと並べないな」

 そこでふと奇妙な感覚に囚われる。いつか、この家の今の主である伯父もここに並んで、再び宴会が始まるのだ。私は茶の間の方を振り返る。

 大机では足りずに折りたたみ机まで広げて、ところ狭しと料理が並んでいる。一家は酒瓶を何本も開け、笑い声を上げている。末っ子の父は大層可愛がられながら、私はその横に座りビールへ口をつける。「もうそんなに大きくなったの」と伯父と伯母がはしゃぎ、祖母が微笑む。そしてその奥、ソファにどしりと腰を据えた祖父が「こっちにきなさい」と私を呼ぶ。向かう最中、私の体はみるみる縮んで、祖父は私の両脇を抱え上げる。

「大きくなったなぁ……!」

 うん、大きくなったよ。そして、また小さくなるんだろうな、納骨堂で見たあなた達の骨壷のように。